ナポレオンもまた我々と同じ凡常な人物である―『戦争と平和』でトルストイは英雄をそう描いてみせた。
もしナポレオン本人にこの言葉をぶつけたらどういう反応をするだろうか。「ああそうだ、私は凡常だよ。ただ時勢から英雄という役割を演じる巡り合わせになったにすぎない」と答えるだろう。そして、愛読書の『プルターク英雄伝』の言葉を引いて、「人間は限りなく弱いものである」とも言うに違いない。ナポレオンの実像を探求すればするほど、このことは確信に近くなる。
あなたはナポレオンについてどのようなイメージを持っているだろうか。ナポレオンを知らないという人はいない。これまで多くの人が様々に語ってきた英雄、軍事の天才、革命の申し子と語られることもあれば、暴君、侵略者、独裁者、圧制者だとも語られる。あるいは年上の妻ジョゼフィーヌとの恋愛といった切り口からも語られている。
とりわけ武力信奉者のイメージが強いのではないだろうか。そうしたイメージが強くなった要因としては、人々がナポレオンを理解しきれなかったことが大きかった。人々は理解できないからこそ怖れるしかなかった。怖れざるを得なかったからこそ憎むしかなかった。そうして人々は、ただ武力の面だけを強調したナポレオン像を作りあげていった。
（『よき人々の系譜』より）

1769年　コルシカ島（現イタリア）に生まれる。
1791年　ジャコバン・クラブに入る。
1793年　ツーロン港攻略に成功。
1794年　テルミドールの反動で投獄・失職。
1795年　ヴァンデミエールの反乱。国内軍最高司令官および総裁政府軍隊師団長
就任。
1796年　ジョゼフィーヌと結婚。
1798年　エジプト遠征軍総司令官就任。
1799年　ブリュメール18日のクーデターを実行。執政政府樹立。
第一執政就任。
1804年　皇帝に即位。フランス第一帝政の開始。
1805年　アウステルリッツの戦いに勝利。
1812年　ロシア遠征。
1814年　皇帝退位。エルバ島に流される。
1815年　エルバ島を脱出し百日天下。セント・ヘレナ島に流刑。
1821年　51歳で亡くなる。

（考え）万人が共栄・調和する世界を実現することこそ、自分の役割である。
（結果）公益につながるものを実施するときは、権力を使ってすみやかに実行した。
たとえその功績を人々が気づかないとしても全力を傾けた。

アレクサンドロス大王、プルターク、ゲーテ、トルストイ、ヴェルヌ、ビスマルク

ゲーテ

ナポレオンの楽しみは読書だった。啓蒙思想書や哲学書をはじめ、古今東西の歴史書、軍事書、法学、地学、天文学など、あらゆる書物を読んだ。中でも『プルターク英雄伝』が大好きで、自分もいつか彼らのような英雄になりたいと思っていた。

アンドレ・マルロー編（小宮正弘訳）『ナポレオン自伝』（朝日新聞社、2004）
（書簡、文章を日記として編集した伝記）
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オクターヴ・オブリ編（大塚幸男訳）『ナポレオン言行録』（岩波書店、1983）
（ナポレオンの手紙や言行録をまとめたもの）
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菊池寛『ナポレオン傳』（改造社、1931）
（戦前に菊池寛が記した伝記。戦後の伝記とは異なる面が描かれている）
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浜田けい子『世界の伝記31　ナポレオン』(ぎょうせい、1980)
（手軽に読めるナポレオンの入門書）
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桑原武夫編『世界の歴史10　フランス革命とナポレオン』（中央公論社、1961）
（ナポレオンの時代の背景、通史を知るための歴史研究書）
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松村劭『勝敗を決めた名将たちの伝説的戦術』（PHP出版社、2010）
（軍事学の立場からナポレオンの歴史的意義を考察。ワーテルローの戦い収録）
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松村劭『世界の歴史を変えた名将たちの決定的戦術』（PHP出版社、2007）
（ナポレオンの戦術を軍事学の立場から考察。アウステルリッツの戦い収録）
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阿部祐太著『よき人々の系譜』（阿部出版）
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